会長の「中国ひとくち時評」


                         『中国の時代』は来るのか


先日、バス待ちの合間に何気なく入った本屋で『中国の時代』(ダイヤモンド社)という本を見つけた。著者はジム・ロジャーズ。米国では冒険的投資家として知られている人らしい。この本も「全米ベストセラー」と帯に書いてある。

彼はかつて著名な投資家ジョージ・ソロスと投資会社を起こして大金持ちでなったが、37歳で引退し、ウォール街で静かに暮らし始めたものの「現場好き」の心が疼(うず)きだし、世界の息吹を肌で感じとるためバイクを駆って世界一周の旅に出た。一度では飽き足りず、バイクを乗り換えて再度、とりわけ中国を丹念に回ったようだ。

バイクによる過酷な世界二周で、ロジャーズが到達した結論は「21世紀は中国の世紀になる」ということだった。「19世紀はイギリスの時代、20世紀はアメリカの時代だったように、21世紀は中国の時代になる」とロジャーズは断言し、中国には無限のビジネス・チャンスがあると投資家たちを励ましている。

私は投資には縁遠い人間だが、ロジャーズの中国観にはとても興味をひかれた。彼は個別の銘柄の話に移る前に「私にできる最高のアドバイスをしたい」と言って、「あなたのお子さんやお孫さんに中国語を習わせなさい。彼らが生きている間に中国語は一番重要な言語になるだろう」と述べている。

さらに何度でも中国に行き、中国の生活と文化を体験し、中国問題の良書を読み、「中国脅威論を説いて人を怖がらせて日銭を稼いでいる"専門家"と称する連中」に惑わされず、自分の中国観を持ちなさいと言っている。彼はそう説くだけでなく自ら実践している。「私は中国の長期的見通しを固く信じているので、03年に生まれた娘、ハッピーに中国人の乳母を雇った。おかげで彼女はもう北京語がうまく話せる。もう一度言う。(私のように)ドルを売って元を買って、子供に中国語を学ばせなさい」。

折しも、ラクイラ・サミットで、これまで世界の主役だったG8が限界を露呈し、G20こそが国際社会の新たな主役であることをまざまざと示した。今度のサミットで最も注目されたのは、初デビューのオバマと世界経済のけん引役となった胡錦濤の言動だった。オバマは「核のない世界」の提唱でニュー・アメリカを演出したが、胡錦濤はウイグル動乱で急きょ帰国し、大きな穴を開けてしまった。しかしこれが却って中国の存在感を際立たせることになったという。「中国の時代」は一歩ずつ確実に近づいているようだ。中国の覚悟と用意を国際社会が問い始めている。
                                                           (久保孝雄)
『日本と中国』09年8月15日所載