会長の「中国ひとくち時評」


                   震災復興と日中関係



今回の大震災は日本をめぐる国際関係、とくに日中関係にも多くの影響をもたらしている。震災発生いらい中国はじめ140以上の国や地域、多くの国際機関やNGOなどからさまざまな支援が寄せられ、日本国民への励ましになった。日本人の忍耐、勇気、献身などが国際的賞賛の的にもなった。

しかし半面、日本を見る国際社会の目が厳しいことも事実である。多くの国が自国民に帰国勧告を出し、日本への渡航自粛を呼びかけたりした。このため大勢の外国人が出国したが、とりわけ中国人の帰国者が10万人を超えたことが注目される。各地の中華街や中華料理店で休業、閉店するものが続出した。多くの留学生が親の希望で学業途中で帰国している。

4月の来日外国人数を見ると、なんと前年同月比62.5%も減少している(5月も50%減)。とくに中韓両国からの入国者の減少率が高い(韓国66%、中国50%)。昨年の中国人旅行者は141万人だったが、1人当たりの消費額は20万円とみられているので、2800億円の消費需要を生んでいたことになる。もしこれが半減したら日本の観光収入は中国人だけで1400億円の減収になる。すでに中国人向け観光・買い物スポットにあるホテル、旅館、土産物店、百貨店、電器店などには深刻な影響が出ている。

5月21日、日中韓のサミット出席のため來日した温家宝首相は、宮城、福島の被災地を訪れ、犠牲者を追悼し、避難民を励ましたが、記者会見などを通じて「中国は地震多発国なので、日本の震災がわがことのように思える。日本は必ず復興すると信じている。そのためあらゆる支援を惜しまない」と述べ、輸入規制の緩和や観光ツアーの復活促進、被災地児童の中国への招待などを約束された。

この温家宝首相の発言を受けて、中国人観光客が少しずつ回復しているようだが、ある中国の旅行社幹部は「福島が収束しない限り、いくら募集しても人が集まらない。原発の収束がすべてのカギだ」と述べていたが、3ヶ月経っても収束の見込みが立っていない原発事故対応への不信といらだちが、日本の国際的信用を大きく傷つけているのが現実だ。

これから復興への取り組みが本格化していくが、中国人旅行者の激減が日本経済にダメージを与えているように、復興を進めるには東アジア、とくに中国経済との共生関係の強化が不可欠だ(すでに対中貿易は対米を超え、対アジアは対米の3倍)。震災復興を通じての日中経済の一層の緊密化が、日中関係の当面する最大の課題であり、そのためにも原発収束が急務なのだ。
                           
                          
                                                          (久保孝雄)