■梁祝  古野浩昭さん 2009年秋 中国民話劇[梁祝]を日本で初披露されました。
中国民話劇「梁祝」公演

10月3日(土)午後2時と6時の2回、中国民話劇『梁祝』(楊山伯と祝英台)公演が行われた。
 会場は鎌倉生涯学習センターホール。当日は午前中に雨が降ったものの定員280人の会場はどちらの回とも満員御礼となった。
 公演は、今から千六百年以上前、中国・揚子江の南(江南)の会稽郡(現在の紹興市周辺)で生まれた悲恋の物語をもとにして、古野浩昭さん(県日中友好協会員)が演出・脚本された。出演者は鎌倉の劇団員や一般公募でオーディションにより選ばれ1年前から稽古を重ねてきた。
物語は梁山伯と祝英台が義兄弟の契りを結び、親交を深め、最後には二人の思いも実らず、蝶となり天に舞っていく悲しい物語。劇中、バイオリンの演奏や太極扇を入れるなど趣向を凝らした演出に時間を忘れてしまうほどだった。特に最後のプロバレーダンサーによる蝶の舞は感動的なものだった。

                  
「梁祝」伝説は越劇(中国版宝塚)の人気演目のひとつで、中国各地の舞台公演に加え、これまでに映画、テレビでも何度も放映されており、中国人なら知らない人がいないといわれるほど有名なストーリーだ。
 中国民話劇『梁祝』公演実行委員会 代表 古野浩昭
                  梁祝文化研究所所長 渡辺明次   劇団鎌倉こまち 青井聡子
「梁祝」日誌22

「梁祝」公演の幕が下りた。昼、夜ともに満席状態。会場ホールの鎌倉生涯学習センターは開幕1時間前からホール入口前に行列ができていたが、いくら大勢の客が詰めかけてくれたとはいえ、観劇後の客の反応が悪ければ、公演が成功したとは言えない。客席を立ち、ホール外へ出ようとする客にお礼の一言でも、と出口に通ずるフオイアーに舞台から下りた役者たちが衣装を着けたまま壁に並んだ。「良かったよ〜」「感動した!」の握手、握手攻め。両手に抱えきれないほどの花束。俳優の中村雅俊(大学の後輩)も「昼の部」に目立たないようにと、サングラス姿(実は目立つ)で観にきてくれた。「夜の部」も、「昼の部」の反応に勝るとも劣らない手応え。劇評では、日頃から厳しい鎌倉在住の、プロの演出家S氏も「予想していたのより3倍くらい、いいでき。おめでとう」と声を掛けてくれた。‘どうせ、ド素人’芝居と考えていたのだろうから、そのレベルから3倍くらいアップしてもあまり喜べない?ともあれ、どんな出来にせよ、驚いたことは間違いない。

公演が成功した、と確信したのは、その夜の興奮が冷めやらない中で、観客が書き残したアンケート評を読んでから。批判も覚悟していたが、約50人ほどの劇評のうち、9割以上、つまり2,3の人を除いて圧倒的な人が、「素晴らしい出来」、「涙が出て顔がクシャクシャになった」、「再演を」、「ヴァイオリン、太極扇の舞い、フィナーレを飾るクラシック・バレエのコラボが、劇の中にしっかり溶け込んでいた」と評価してくれたのだ。2,3の批判は「明かり(照明)が時々、役者の演技に追いついていなかった」「暗転が多すぎる」「役者の台詞が聞き取れないところがあった」などで、この程度の批判にとどまったこと自体が逆に成功を裏付けているともいえる。満足だ。2007年春、中国の大学で‘梁祝ものがたり’を初めて知り、これを舞台に乗せたいな、と夢見てから足掛け3年。2008年初夏、鎌倉で「梁祝公演実行委員会」を立ち上げてから1年半で、「梁祝」が舞台に乗ったことになる。映画を除いて中国でも梁祝が上演されるのは、大半が伝統劇「越劇」スタイルであることを考えると、誰にも分かりやすい新劇のような‘話劇’として日本初演が実現したのは、当然とはいえ、やはり嬉しい。現在、中国・湖南省の大学で教鞭をとられている「梁祝文化研究所」渡辺明次所長以下、戯曲「梁祝」公演の実現に惜しみない協力をしていただいた大勢の方に心から感謝申仕上げたい。

公演から1週間経った10月10日、鎌倉・小町通りの居酒屋でヴァイオリンの守田千恵子さん、バレエの大徳隆子さんを交えて12人の‘梁祝芝居役者’が勢揃いして打ち上げをした。以下は、内輪の‘梁祝アカデミー賞’の概要だ。打ち上げの様子を余興として、ご一緒に楽しんでいただければ幸いだ。

‘梁祝アカデミー賞’ 発表

梁祝制作特別功労賞 兼 主演女優賞 青井聡子 贈答品中国西蔵宝飾首飾り 
「実行委」主力メンバーとして立ち上げから渉外、会計役を担当、‘艱難辛苦’を乗り越え、主演女優の傍ら、稽古場の予約からスケジュール作り、家庭で休息する私的な時間を削って大勢の役者の衣装作りに東奔西走。さらに裏方さんへの心配りなど「梁祝」公演成功に導いた最大の貢献者と認定します。ありがとう!

主演男優賞 伊藤健康 オーストラリアNSW州産カベルネメルローワイン
始め、ひ弱で背中が曲がった青年だったが、月日が経つにつれ、みるみるうちに凛々しく成長。役に成りきり、顔はキリリと絞まり、その立ち姿は、ナントカという有名な俳優に似てきた(名前忘れた)。最後に、死にゆく場面は、近代演劇の神さま、スタニスラフスキーもびっくりする迫真の演技だったね。本物の俳優になれる日も近い。おめでとう!

助演女優賞 国松知令 中国雲南省白族装飾指輪付き腕輪(紅色)
最初ドタドタ、キンキン声だったが、稽古が進むにつれ、声は安定、良く通り、仕草も独創的に可愛くなり、中国人下女、銀心を見事に演じた。特に結納の知らせを報告する場の演技は出色。今後、国松・銀心を超える女優は出ないかもしれない。最後の「英台さま〜」と叫ぶシーンも感動的だった。おめでとう!

助演男優賞 鈴木英二 会稽山ブランド高級陳花「紹興酒」
稽古が始まり、英二の演技を見てこれからどうしようかと、三日三晩、考え込んだが、40年前のカンを次第に取り戻すや、往年の味わいを随所に出してきた。夏の由比ヶ浜特訓が過ぎるころには、もはや「杭州の塾」の場なしで「梁祝」芝居は語れなくなったほど。中国語も、しまいには完璧な発音。奥様と夫婦二人で真夜中、ベッドの中で苦心して役作りした二杯目の紹興酒を呑む仕草は、本番では必ずしも報いられなかったが、鈴木英二扮する周世章役の味わいを出せる俳優を探すのは、至難の技になった。見事なポスト還暦舞台、おめでとう!

努力女優賞 大隅美和子 浙江省「中国四大美人西施の里」天然造形真珠
始め、棒立ち、声ひ弱、ついてきてくれるかな、と心配したが、持前の粘りと、寝るのを惜しんで、いや、役作りに没頭しすぎて眠れない夜もしばしば。その努力ぶりは、後進の役者をどれだけ鼓舞したことか。由比ヶ浜特訓にとどまらず、夕暮れ時、人知れず、演出と二人きりで‘八幡さま’の境内でひと目を憚らず稽古した日々。役作りに精進するその姿は、人間、大隅美和子そのものでした。「井上蒲鉾店」牧田社長をはじめとして本番舞台の美和子さんの自然な演技に、ご家族の方もきっと涙したことでしょう。見事な初挑戦、役者舞台でした。おめでとう!

新人賞     渡邊勝樹 辮髪付き清朝帽
最年少(高校2年)の「梁祝」役者。最後まで背中はシャキッとしなかったが、渡邊君の「論語」を読む姿は、前途有望、溌剌として凛々しかった。今後、絶対にこの台詞を忘れないように。いずれ就職するとき、面接で特技は?と聞かれたら「論語」です、応えること。大声で「子、曰く。学びて時に之を習う。また悦ばしからずや」と胸を張り、社長の前で言ってごらん。合格間違いなし。これからも頑張れ!

優秀美術賞   下山達也 オーストラリア産ヤランバ・シャドネーワイン
初めの梁祝のチラシ、あの天上に白い霧が力強く上っていく構図。よくCG技術で見事に作り出してくれました。続いてチケットと公演当日に配ったパンフの構図と色合い、土台に使った杭州の風景写真も素晴らしかった。本人は役者に未練いっぱいのようだけど、こちらはきっと、いばらの道。裏方さんの重鎮として十分に活躍してくれました。ありがとう!

舞台制作努力賞  遠藤正彦 東急、小田急、京王電鉄全線優待券各2枚 
雨にも負けず、風にも負けず、日夜、トーフの行商の傍ら、梁祝の稽古に励んだね。追い込み時には、舞台監督助手見習いとして難しい椅子の転換に骨身を削ってくれた。四九の役作りも自然にサマになっていきました。カンどころ良く、一度言われたら、すぐにそれをモノにしてしまう技量もある。今後も春夏秋冬、決まった時間、決まった場所でトーフを売り続けること。役者修業の大事な稽古場だよ。地道に働けば、道はおのずと拓けん。

迫真演技賞 李 文 雲南省白族伝統拡大鏡、及び「ロイアルホテル」優待券
いろいろと、うるさい人と事前に聞いていたが、見ると聞くとでは大違い。時々、稽古中に居眠りしたり、ちょっぴり勝手なところもあったが、夏以降、仲間とすっかり打ちとけ、出席率も急上昇。真面目な李文が真面目に役作りをしました。その努力が実を結び、わずかな出番ではあっても、その台詞と仕草は、観客のこころに確実に届きました。瞼の母の迫真の演技あってこそ、梁山伯の演技も生きました。素晴らしい母子家庭。チュー夫人にしなくて良かった。おめでとう!

各賞‘上品な妻だったで’賞  上岡路子 「ロイヤルホテル」優待券、及び「銀座ルノワール」優待券2枚
途中、掛け持ち出演で稽古を空けた日々もあったが、稽古に出たときは、熱心に役作りに励みました。時折、納得がいかなかったのか、不満顔もありましたが、本番の楽屋でみなさんの衣装を甲斐甲斐しくアイロンに掛けてくれたシーンは感動的。私が「なかなかの姿」と褒めたら「私、実はこっちの方が好きなの」と微笑んだ顔は素敵だった。舞台で声が細くなって心配したが、上品な周夫人役は見事にこなしました。ありがとう!
各賞‘可愛すぎたで’賞  鳥井まり (同上)
稽古を休んだ日数は史上最悪だったけど、9月半ばから小屋入りしてからは、皆さんとよく打ちとけてくれました。時折、その声が練習中の役者さんに不評を買うこともあったが、知らぬは仏。元気にしゃべり、メークで働いてくれました。もともと可愛い顔をしているのだから今後はうす化粧を心掛けたらいいかもね。役者道、初心忘れず、何事も謙虚に学んでいくことが、本物の演劇人になる近道です。頑張れ!

梁祝バレエ特別賞 大徳隆子 雲南省白族宝飾首飾り(ブルー)、「ロイアルホテル」優待券
2008年の李バレエ・アカデミーによる「梁祝」初舞台以来、今回が二度目の「梁祝」バレエ。お相手、クラッシックバレエ界の鬼才、小林貫太さんの振付の下、天国に行った梁祝二人の「天上の舞い」を情感豊かに表現。モスクワ・ボリショイバレエの片鱗を見せてくれました。また、今回の梁祝劇でコラボしたバレエの位置を的確に捉え、劇全体の構成を崩さないよう配慮した振り付けに頭が下がりました。ありがとう!来年の小林バレエ団の「ノートルダムのセムシ男」出演期待。必ず観に行きます。

梁祝ヴァイオリン特別賞 守田千恵子 上海博物館所蔵「北宋書」複製飾り、及び小田急、東急、京王電鉄全戦優待券各2枚、「ロイアルホテル」優待券
最初5分、次に2分、そして3分で決着した演奏時間。ヴァイオリンの弦がはじけるほど動揺されたかと思いますが、何度かの手直しにもめげず、舞台での演奏は、さすがでした。ある観客は、ヴァイオリンの音色でありながら二胡の音色のように中国的に情感が溢れている、と絶賛していました。また、ヴァイオリン協奏曲「梁祝」の生演奏を昔のテレビ番組(山本直純指揮)「オーケストラが街にやってきた」で聴いて以来、忘れられなかったその美しい音色を40年ぶりに聴けると、はるばる群馬県からこの芝居を観に来てくれたお客様もいました。きっと、満足されて帰ったことでしょう。香港の西埼崇子、そして藤沢の守田千恵子、これで「梁祝」ヴァイオリンの奏者は日本で二人になりました。ありがとうございました。

「梁祝」日誌 完