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史上空前の巨大地震と大津波で一瞬のうちに壊滅した東北太平洋岸の街々、津波に破壊されて重大災害を起こした原子力発電 所周辺から逃れゆく数万の人々―東北、北関東を襲った今回の大震災の被害の深刻さ、苛酷さは言語に絶する。死者・不明者数万、被災者数十万、壊滅した市町 村も数多い。

さらに深刻なのは、津波による破壊で制御不能に陥った福島第一原子力発電所で発生した未曾有の原子力災害だ。放射性物質の飛散で周辺住民を恐怖のどん底に 陥れ、避難や退避、農漁業の崩壊などの甚大な犠牲を強いたばかりか、日本国民全体に底知れぬ不安と恐怖をもたらし、「一億総うつ」状態を生みだしている。

福島原発事故の報に、世界中で「ノーモア・フクシマ」の声が広がっている。改めて「核と人類の共存は可能か」の根源的な問いがクローズアップされている。 自国民に帰国を勧告する国も多く、原発事故への不安と恐怖の大きさを示している。欧米など原発保有国は一斉に安全対策の強化に乗り出すとともに、原発政策 の見直しを宣言する国が増えている。ドイツはじめ欧米各地で反原発の大デモが繰り返されている。

フクシマはおそらく文明史的転換の分水嶺になるかもしれない。少なくともウランを燃料とする現行の原発依存社会は持続不可能になっていくだろう。こうした 反原発、原発見直しの国際的潮流のなかで、中国の原発政策の動向が注目されている。中国はCO2削減のため、今後20年で数十基の原発建設を進め、石炭依 存からの脱却を計画しているが、去る1月の中国科学院(科学研究の最高機関、国務院直属)総会で、トリウムを燃料とする溶融塩原子炉(MSR)の開発に着 手していることを公表していたからだ。

核兵器の原料となる毒性の強いプルトニウムを産生する現行のウラン燃料原発に変えて、プルトニウムを産生しないトリウムを燃料とする、より安全で平和な原 発が実用化されれば、原発政策の画期的転換となる。しかも、トリウム炉は廃棄困難で溜まり続けるプルトニウムを燃料に使えるほか、メルトダウンの危険もな く、埋蔵量も豊富と言う。

アメリカは1960~70年代にトリウム炉の開発を進めていたが、その後中止したままだ。プルトニウムが取り出せないためと思われている。しかし、核兵器 の需要が減り、ウランの枯渇問題もあるため、インド、フランス、アメリカなどでトリウム炉への関心が高まってきた。フクシマは太陽光など自然エネルギー活 用への転換と共に、次世代原発実用化への動きを加速するのではないか。中国の動向に注目したい。

(久保孝雄)

『日本と中国』2011年4月25日号 所載

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