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中国ひとくち時評

「米中関係の守護者」としてのキッシンジャー

中国ひとくち時評

(まえがき)今年は日中国交正常化40周年だが、これに大きく道を開いたニクソン米大統領の電撃的中国訪問=米中の歴史的和解(1972年2月)からも40周年になる(米中国交正常化は79年)。

最近の日本のマスコミの論調は、米国の中国包囲網強化による米中の緊張激化を報ずるものが目立っているが、これはかなり偏った報道であり、国民の判断を誤らせる危険がある。

40年前のニクソン訪中を演出したキッシンジャー元大統領補佐官(後に国務長官)が、最近、米国の権威ある外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(3月号)に「米中関係の将来―衝突は必然ではなく選択の問題」と題する論文を寄せているが、これを読むと日本のマスコミの論調がいかに皮相かつ意図的なものかを改めて教えられる。

以下、ご参考までにあるメルマガに書いたこの論文への感想を転載する。

 

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私は個人的にはキッシンジャーをあまり好きではない。彼には日本および日本人を一格下に見ている(日本に対する戦勝国意識をにじませている)ところがあるからだ。ニクソン大統領の特別補佐官だった彼が、米中和解への秘密工作を続けていたとき、アメリカの意表をついて中国との国交回復を図った田中角栄に激怒し、失脚させたのは彼である。また、日米安保は中国を対象にしたものではなく、日本の軍国主義復活を抑える役割があることを強調して、毛沢東や周恩来を説得したのも彼である。

 

中国、ロシアをはじめ、世界の列強の首脳たちと渡り合ってきた彼にとって、日本および日本人はいかにも一格下に見えるのだろうが、しかし、日本をこうした国にし、日本の政治家を矮小にしたのは他ならないアメリカだったことに、彼は心の痛みを感じていないようだ。彼の定義によれば、「主権国家の根本とは、他国の制約を受けずに自ら決断を下す権利を有していること」(キッシンジャー著『中国』上下2巻 岩波書店)である。占領終了後60年を経た今なお、アメリカは沖縄はじめ全国各地に広大な米軍基地を保有し、自らの戦略で自由に運用しており、「戦勝国」アメリカから様々な主権制約を受け続けている日本は、まともな主権国家とは到底言えない。

 

政財官に拠る日本の支配層は、国家主権の基本である安全保障や外交の基軸、つまり国家戦略の基本をアメリカに依存してきた(させられてきた)ので、「日本人は戦略的思考が弱い」(キッシンジャー)という状態に封じ込められてきたのだ。もちろん、これに甘んじ続けてきた日本の政財官+マスメディアなど支配層のアメリカ覇権信仰や独立心の欠如を免責するものではない。

 

このように、彼の対日観には不満と批判はあるが、国際関係に対する、とくに米中関係に対する彼の戦略判断には一目も二目もおきたくなるところがある。米中関係は究極において破局に陥ることはない、と私が確信している根拠の一つは、当代屈指の戦略家キッシンジャーがアメリカでいぜん影響力を持つ存在だという点にある。最近出版された彼の著書『中国』(前掲)の「解説」で、松尾文雄氏は彼を「米中関係を構築し続ける男」と呼び、「米中関係の守護者」と言っているが、確かに彼は70年代初めに米中和解を演出し、米ソ冷戦終結への布石を打つなど、世界構造を動かす大事業に携わっていらい、起伏の多かった米中関係を安定化させるため、老いに抗しながらも渾身の力を込めて活動し続けてきている。それは彼が米中関係の安定こそ、世界構造の安定に不可欠の要素だと考えているからである。

 

この度、初岡昌一郎氏がメール・マガジン『オルタ』5月号に紹介してくれたキッシンジャーの論文「米中関係の将来―衝突は必然ではなく選択の問題」は、彼の中国認識と米中関係論をコンパクトにまとめたものであり、著書『中国』(前掲)のエッセンスともいえる。彼はこの短い論文の中で、米中関係について基本的に重要なことを簡潔に述べている。いくつかを例示してみよう。

 

「(アメリカは)戦略的選択として(中国との)対決の道をとるべきではない。米中両国は、長期間の対決路線によって相互に与えうる大損害を考えれば、今日直面している新しい任務に手を携えて取り組まざるを得ない。すなわち、両国を重要な構成要素とする国際秩序を作り上げることである。・・・中国とアメリカの長期的対決は世界経済を変貌させ、すべての国の経済を混乱に陥れる」。

 

「中国の最近の軍事力増強自体は珍しい現象ではない。むしろ、世界第2の経済大国がその力を軍事力に反映させないことのほうが驚くべきことである。もしアメリカが中国の軍事力増強を敵対的行為として反応を繰り返せば・・・際限のない紛争に巻き込まれるだろう」。

 

「米中関係はゼロサム・ゲームではなく、強力で繁栄する中国の登場はアメリカにとっての敗北ではない。協力的アプローチは両側にある既成概念に対する挑戦になる」。

 

「同様な地理的規模と比肩しうる国際的力量を持ちながら、政治的文化的に大きく異なる国と向き合うことは、アメリカにとってほとんど前例のない歴史的経験である。これは中国にとっても同じことであろう・・・中国とアメリカは現実に耐え続けるほかに道がない。両国は独自の利益を追求しながらも、実際の政策だけでなく、用いる言辞においても、相手の抱く悪夢に配慮し、疑心を煽らない責任を負っている」。

 

以上、若干の例示だが、日本の政治家が格下に見られても止むなしと思わざるを得ないほど、深い洞察に基づく卓見が続く。

 

ここに示されているように、彼は世界構造の安定のためには、米中基軸の世界秩序を作ることが基本課題だと考えている。いわゆる「G2」(米中)論である。しかし、彼は別のところ(国際討論会『中国は21世紀の覇者となるか?』早川書房)で、長期的にはBRICS(伯、露、印、中、南ア)など新興国が世界構造の中軸を占める多極共存の時代が来るとの構想も示している。キッシンジャーの世界秩序への展望ないし構想は、「中期=G2、長期=多極共存」ということのように思える。

 

しかし、キッシンジャーの多極論は最近始まったものではなく、米ソ冷戦終結の頃からのものである。私が彼に注目するようになったのは、彼が世界構造を変える一頁となった米中和解の立役者だったと言うだけでなく、冷戦終結後「唯一の超大国」となったアメリカで「一極支配」を謳歌する世論が高まり始めた頃、これに冷や水をかけるようにアメリカの衰退を予言し、世界が多極化するとの展望を持っていたこと、つまり、彼の世界認識、時代認識の深さに感銘を受けて以来のことである。彼は冷戦終結、ソ連崩壊直後の92年当時、すでに次のように発言している。

 

「今まではアメリカン・エクセプショナリズム(アメリカは例外的な特別な国だと言う考え方・筆者注)がアメリカ外交の原動力となってきた。しかし21世紀の国際構造が多極化していくのは、不可避である。今後の国際社会では、アメリカのやり方を他の諸国に押し付けようとする外交ではなく、諸国の国益をきちんと計算してバランスしていく外交政策が必要になるだろう」(伊藤貫『自滅するアメリカ帝国』文春新書)。

 

いずれにせよ、日米同盟の深化と称して、軍産複合体が主導するアメリカの世界戦略に自ら進んで組み込まれ、「中国封じ込め」戦略に前のめりに加担しつつ、ヒステリックなまでに反中、嫌中論に傾斜している日本の政財官+メディアの主流派の人々に、卒寿の老戦略家キッシンジャーの謦咳に触れて「早く目を覚ませ」と言いたい。

(本稿は『オルタ』5月号所載のものに加筆したものです。久保孝雄)

 

 

 

 

 

北京のアダム・スミス

 

懸案だった白内障の手術が成功し、苦痛だった読書が大変楽になったので厚みのある本を読んでみたくなった。大型書店で物色したところ、中国関係本のコーナーで『北京のアダム・スミス』(作品社)と題する分厚い本を見つけた。

著者はジョバンニ・アリギというイタリア人社会学者で、ウオーラースティンらとともに「世界システム」論をリードする有力な論客だ。本書が遺著だという。帯のコピーには「21世紀資本主義の世界システムは中国の台頭でどうなるか」「アダム・スミス的な市場社会の後継者はむしろ中国である」とある。読書意欲をそそられて早速買い求め、読み始めた。7百頁もの大著なので少し尻込みしたが、ぐんぐんひき込まれてしまった。

数百年の世界史の流れの中に現代中国を位置づけ、中国台頭の意義を深く掘り下げていく壮大なスケールの中国論だ。本書の目的は「グローバルな政治経済の中心が北アメリカから東アジアに移行しつつあることを、アダム・スミスの経済発展理論から解釈することと同時に、そのような観点から『国富論』を解釈すること」にあるが、この目的は十分果たされている。アメリカの衰退と中国の台頭によって「世界の文明間のより大きな平等性にもとづく世界市場社会というスミスのビジョンが、『国富論』刊行以来の2世紀半の中で、かってないほど実現してきている」ことを論証しているからだ。

他人の不幸の上に自分の幸福を追求してはならないと考えていたアダム・スミス(『道徳感情論』)にとって、植民地を収奪、搾取したり、殺人と破壊の戦争をやりながら実現した欧米の資本主義の発展は「特殊」で「非自然的」なものであり、到底容認できるものではなかった。

これに対して「他国の領土を1インチでさえも、それを支配する目的で1人たりとも兵士を送ったことはない」(温家宝)中国は、農業から工業へ、さらに対外貿易を拡大しながら経済大国への道を辿っているのであり、「資源を略奪し、世界覇権をめざして武力を行使するという、ドイツが第1次世界大戦で辿った道にも、日本とドイツが第2次世界大戦で辿った道にも進むことはない」(鄭必堅)とする中国の市場経済社会の発展の経路こそ「自然的」なものだと著者は主張する。

欧米の資本主義の発展こそ「正常」であり、中国の発展は「後進的」で「異常」であるとする通説を覆す卓見である。目から鱗(うろこ)が何枚も落ちた。悪意ある近視眼的中国論が横行するわが国で、偏見を正すためにぜひ一人でも多くの人に読んでもらいたい一冊である。

『日本と中国』2011年12月15日号所載 

アジアで孤立深まる日本外交

夏休みを郷里で過ごしてきた韓国の友人から電話があった。開口一番「アジアにおける日本の外交的孤立は深刻ですね。このままでは大変なことになりますよ」という。

彼は日本滞在が長く、日本の大学で教師をしている大変な親日家、知日派であり、台頭する中国と対等に付き合うには日韓連携が不可欠との主張を持っている。その彼が、休暇を過ごしていた間の韓国世論の激しい変化や東アジア情勢などを伝えてきてくれたのである。

彼によれば、東日本大震災の直後、韓国人自らが驚くほど日本への同情心や親日感がわき上がり、義援金も想像を超える額が全国から寄せられたという。これで日韓関係も大きく改善するかに見えた矢先、竹島を日本領土とした文部省指導要領問題が起き、追いかけるように日本の国会議員が竹島視察のためウルルン島(鬱陵島)訪問を計画し、韓国政府が入国を拒否するなどの事件が起きて、震災支援で盛り上がった親日感情が一挙に崩れ、反日感情が高まってしまったという。

さらに韓国の一部識者の間では、野田首相はじめ政権幹部の相次ぐ右傾化発言に反発し、日本と領土問題を抱えるロシア、中国、韓国(+北朝鮮)が連携して対日圧力を強める外交戦略を模索すべきだとの強硬意見も出ているという。事実、韓国、北朝鮮は貿易や資源・エネルギー問題などを通じて中露との関係が強まっている。

彼との対話を通じて痛感したことは、日本が戦後65年、日米安保=日米同盟に安住して外交自主権を放棄し、対米追随に明け暮れている間に、世界もアジアも様変わりの変ぼうを遂げ、日米同盟の「神通力」は昔日の面影を失っているのに、それに気づかず、あるいは気づかないふりをして、世界とアジアの新しい現実から目を背けてきた大きなツケが、いま日本外交崩壊の危機を招いているということである。

私は小泉内閣いらい、アジア軽視、対米従属の日本外交に警鐘を鳴らしてきた。とくに世界政治に地殻変動をひき起こしつつある「上海協力機構」(中露主導、世界人口の40%、面積で世界の25%、ユーラシアの60%、GDPで11兆ドルを占める共同体)への鈍感な対応を批判してきた。こうした外交の基調を変えようと「アジア重視」を掲げて政権に就いたのが民主党だったので大いに期待したが、内外の圧力で急速に変質し、対米追随とアジア軽視外交に戻ってしまった。安保・防衛ではむしろ対中国牽制シフトを強めている。「日米同盟」一辺倒とアジア軽視から転換しないかぎり、ユーラシア世界の新しい政治的ダイナミズムとの断絶が決定的になっていくように思えてならない。

(久保孝雄)

震災復興と日中関係

今回の大震災は日本をめぐる国際関係、とくに日中関係にも多くの影響をもたらしている。震災発生いらい中国はじめ140 以上の国や地域、多くの国際機関やNGOなどからさまざまな支援が寄せられ、日本国民への励ましになった。日本人の忍耐、勇気、献身などが国際的賞賛の的 にもなった。

しかし半面、日本を見る国際社会の目が厳しいことも事実である。多くの国が自国民に帰国勧告を出し、日本への渡航自粛を呼びかけたりした。このため大勢の 外国人が出国したが、とりわけ中国人の帰国者が10万人を超えたことが注目される。各地の中華街や中華料理店で休業、閉店するものが続出した。多くの留学 生が親の希望で学業途中で帰国している。

4月の来日外国人数を見ると、なんと前年同月比62.5%も減少している(5月も50%減)。とくに中韓両国からの入国者の減少率が高い(韓国66%、中 国50%)。昨年の中国人旅行者は141万人だったが、1人当たりの消費額は20万円とみられているので、2800億円の消費需要を生んでいたことにな る。もしこれが半減したら日本の観光収入は中国人だけで1400億円の減収になる。すでに中国人向け観光・買い物スポットにあるホテル、旅館、土産物店、 百貨店、電器店などには深刻な影響が出ている。

5月21日、日中韓のサミット出席のため來日した温家宝首相は、宮城、福島の被災地を訪れ、犠牲者を追悼し、避難民を励ましたが、記者会見などを通じて 「中国は地震多発国なので、日本の震災がわがことのように思える。日本は必ず復興すると信じている。そのためあらゆる支援を惜しまない」と述べ、輸入規制 の緩和や観光ツアーの復活促進、被災地児童の中国への招待などを約束された。

この温家宝首相の発言を受けて、中国人観光客が少しずつ回復しているようだが、ある中国の旅行社幹部は「福島が収束しない限り、いくら募集しても人が集ま らない。原発の収束がすべてのカギだ」と述べていたが、3ヶ月経っても収束の見込みが立っていない原発事故対応への不信といらだちが、日本の国際的信用を 大きく傷つけているのが現実だ。

これから復興への取り組みが本格化していくが、中国人旅行者の激減が日本経済にダメージを与えているように、復興を進めるには東アジア、とくに中国経済と の共生関係の強化が不可欠だ(すでに対中貿易は対米を超え、対アジアは対米の3倍)。震災復興を通じての日中経済の一層の緊密化が、日中関係の当面する最 大の課題であり、そのためにも原発収束が急務なのだ。

(久保孝雄)

ノーモア・フクシマ一世界に広がる原発見直しと中国

史上空前の巨大地震と大津波で一瞬のうちに壊滅した東北太平洋岸の街々、津波に破壊されて重大災害を起こした原子力発電 所周辺から逃れゆく数万の人々―東北、北関東を襲った今回の大震災の被害の深刻さ、苛酷さは言語に絶する。死者・不明者数万、被災者数十万、壊滅した市町 村も数多い。

さらに深刻なのは、津波による破壊で制御不能に陥った福島第一原子力発電所で発生した未曾有の原子力災害だ。放射性物質の飛散で周辺住民を恐怖のどん底に 陥れ、避難や退避、農漁業の崩壊などの甚大な犠牲を強いたばかりか、日本国民全体に底知れぬ不安と恐怖をもたらし、「一億総うつ」状態を生みだしている。

福島原発事故の報に、世界中で「ノーモア・フクシマ」の声が広がっている。改めて「核と人類の共存は可能か」の根源的な問いがクローズアップされている。 自国民に帰国を勧告する国も多く、原発事故への不安と恐怖の大きさを示している。欧米など原発保有国は一斉に安全対策の強化に乗り出すとともに、原発政策 の見直しを宣言する国が増えている。ドイツはじめ欧米各地で反原発の大デモが繰り返されている。

フクシマはおそらく文明史的転換の分水嶺になるかもしれない。少なくともウランを燃料とする現行の原発依存社会は持続不可能になっていくだろう。こうした 反原発、原発見直しの国際的潮流のなかで、中国の原発政策の動向が注目されている。中国はCO2削減のため、今後20年で数十基の原発建設を進め、石炭依 存からの脱却を計画しているが、去る1月の中国科学院(科学研究の最高機関、国務院直属)総会で、トリウムを燃料とする溶融塩原子炉(MSR)の開発に着 手していることを公表していたからだ。

核兵器の原料となる毒性の強いプルトニウムを産生する現行のウラン燃料原発に変えて、プルトニウムを産生しないトリウムを燃料とする、より安全で平和な原 発が実用化されれば、原発政策の画期的転換となる。しかも、トリウム炉は廃棄困難で溜まり続けるプルトニウムを燃料に使えるほか、メルトダウンの危険もな く、埋蔵量も豊富と言う。

アメリカは1960~70年代にトリウム炉の開発を進めていたが、その後中止したままだ。プルトニウムが取り出せないためと思われている。しかし、核兵器 の需要が減り、ウランの枯渇問題もあるため、インド、フランス、アメリカなどでトリウム炉への関心が高まってきた。フクシマは太陽光など自然エネルギー活 用への転換と共に、次世代原発実用化への動きを加速するのではないか。中国の動向に注目したい。

(久保孝雄)

『日本と中国』2011年4月25日号 所載

中国は「仮想敵」か「パートナー」か

こんどの「防衛計画の大綱」(12月17日閣議決定)を読んで驚いた。タカ派色を出すまいとの工夫の跡は見られるが、最 大の特色は中国を「仮想敵」に位置づけていることだ。党内に多数の反中派を抱えていた歴代の自民党政権でさえ、ここまで踏み込むことはしなかった。それを 「アジア重視の外交」を看板の一つにして政権交代した民主党が、党内でも国会でも何の議論もせず、あっさり閣議決定してしまった。あたかも尖閣諸島沖の事 件で高まった(意図的に高められた)反中世論に悪乗りするように、沖縄、南西諸島への陸上自衛隊配備、戦闘機や潜水艦隊増強などの「対中シフト」を鮮明に 打ち出している。

それにしても、菅内閣の外交・防衛政策は危険すぎる。国民の平和と安全のため、近隣諸国との友好関係を深め、平和な環境を創造していくのが外交の基本なの に、緊張を高めることばかりやっている。米国の世界軍事戦略との一体化をめざす「日米同盟の深化」、集団的自衛権や武器輸出3原則の見直しなど、キナ臭い ことばかりだ。最近は首相や外相の口から、半島有事の際の自衛隊出動や日韓の安保同盟といった話まで飛び出している。クリントン長官まで半島有事には在日 米軍基地の韓国軍との共同使用が望ましいなどと言い出している。当然のことながら、これに対しては韓国、中国からの強い反発が起きている。半島有事が起き ないように最大限の外交努力をするのが政府の責任ではないのか。現に、中国の懸命な外交努力によって半島は一触即発の「敵対」から「対話」に転換したと見 られている(英FT紙、1.7)。

これらの「反中シフト」は、「中国の軍拡」への対抗措置だとされている。しかし、軍事評論家の田岡俊次氏は「経済成長で国防費が増えるのはどこの国も同じ で、”異常”ではない。日本が80年代、韓国、台湾が90年代に行った兵器の更新を、中国はいま行っている形で、軍拡とはいえない。国家財政に占める国防 費の割合も減少している」と言っている(サンデー毎日、11.21)。

昨年12月、次期国家主席と目される習近平副主席が、訪中した公明党山口代表との会見で重要発言を行っている。「両国の共通利益は違いを遥かに上回る。早 急な関係改善を望む。中国は日本をライバルではなく、パートナーと見なしている。中国は覇権を求めることはしない」(各紙12.15)。青筋立てて「中国 脅威論」を叫ぶより、パートナーとしての日本を重視する次期国家主席の真摯なメッセージに、真摯に応えることが総理のなすべき仕事ではないのか。

 (久保孝雄)

『日本と中国』2011年2月15日号 所載

2011年「新春の集い」ご挨拶

新年あけましておめでとうございます。「新春の集い」に大勢の皆さんにお集まりを戴き、誠に有難うございました。今日はとくに広東省から孫文先生の生まれ故郷である中山市の青少年芸術交流団46名の皆さんに参加して頂いています。

昨年、日中関係は国交回復いらい最悪と言われるほど悪化いたしました。私たちの活動にも多くの困難が生じましたが、皆さんの温かいご支援、ご協力により、上海万博への参加や青少年交流などいくつかの事業を予定通り実施することができました。改めて厚くお礼申し上げます。

中国では来年、国家主席が交代する予定ですが、次期国家主席になると見られている習近平さんが、昨年12月、訪中した公明党代表団との会見で、大変重要な 発言をされています。「両国の共通利益は、違いよりはるかに大きい。早急に関係を改善することが両国の共通利益だ。政府間だけでなく、民間交流を盛んにす ることが重要だ。中国は日本をライバルではなく、パートナーと見なしている。アジア共同体も日中の連携がカギになる。中国は覇権を求めない」(要旨)。

今後の日中関係にとって大変重要なこの発言を、日本のマスコミは小さく報じただけです。そして同じ時期に、政府は「防衛計画の大綱」を閣議決定しました が、驚くべきことに、戦後初めて日本政府が中国を「仮想敵」に位置づけています。中国が日本をパートナーだと言っているのに、日本政府は中国を「仮想敵」 だと言っている。反中国派の多い自民党政府でさえやらなかったことを、「アジア重視の外交」を看板の一つに政権交代した民主党がやったのは大変残念なこと です。

もう一つ重要な発言を紹介しますと、イギリスの外務次官フレーザーさんが、記者団から「最近の中国は傲慢で、独善的ではないか」と質問されたのに対し、 「われわれはそうは思わない。中国はアメリカと並ぶ大国であり、それにふさわしい自己主張をするのは当然のことだ。むしろ、これまで国際社会は中国にそれ だけの発言権を与えてこなかったことの方が問題であり、国際機関は中国やインドにもっと大きな発言権を与えるべきだ」と言っていることです。さらに最近、 ヨーロッパの知識人の間には、今や世界は、欧米中心の時代からアジア中心の時代に移っていく世界史の境目にきているのではないか、という議論が起きていま す。

このように大きな世界史的観点で、理性的に中国の台頭を見ている欧州の知識人たちに対し、日本ではこうした議論はごく少数で、感情的な中国論が横行しています。これも日本の悲しい現実です。

しかし、中国なしに日本経済は成り立たなくなっている現実を見ても、日中友好が日本の生存戦略の根幹であることは明らかです。今年はぜひ日中関係を大きく 改善していく年にしたいと思いますが、政府にも一層努力してもらいたい一方、習近平さんのお話のように、民間交流をより発展させていくことが大事だと思い ます。

今年は辛亥革命100周年の年ですので、今日の小坂先生のすばらしいご講演(「孫文と辛亥革命を支えた梅屋庄吉」)を皮切りに、1年を通して孫文と辛亥革 命を記念し、日中関係を考える行事を続けたいと思っていますが、今日お見えの広東省対外友好協会や中山市の皆さんにもご協力を戴くことになっています。

こうした地道な交流をつみ重ねながら、今年も草の根からの日中友好活動を深めていきたいと思いますので、皆さん方の一層のご支援ご協力をよろしくお願い申し上げまして、新年のごあいさつといたします。

(久保孝雄)

2011年1月24日 新春交歓の集い

菅内閣の「拝米嫌中」外交は時代錯誤だ

尖閣問題は根がふかく、当分尾をひきそうなので、あえて私見を述べておきたい。

昨年の政権交代で、アジア重視の外交を掲げる民主党政権が誕生したので、日中関係は大きく進展し、北東アジアに平和な環境が創られるものとつよく期待したが、この期待はあっけなく崩れ去った。

日中関係に熱心な鳩山内閣が倒れたあと菅内閣が発足したが、中国脅威論の急先鋒である前原氏が政権の中枢を占めたため、日中関係への影響が懸念されていた。案の定、尖閣問題で長い間の慣行を一方的に破って強硬策に転じ、日中関係を一挙に破壊してしまった。

そもそも自民党よりタカ派と見られている前原氏を、外相に据えたことが間違いだ。日本経済の生き残りのためにも日中関係がより重要になっているこの時期 に、「菅内閣は反・嫌中政権だ」というメッセージを発したようなもので、中国が警戒心を高めるのは当然だ。前原氏だけではない。日中関係がささくれ立って いるさなか、党幹部の枝野氏は中国を「悪しき隣人」といい、「戦略的互恵関係など成り立たつはずがない」との暴言を吐いている。政府・与党幹部がこれほど 攻撃的な中国非難をしたのは、戦後初めてではないか。外交的挑発を行ったのは菅内閣の方だ。

これを機に、マスコミが不正確な情報(尖閣諸島は米国も日本領土と認めておらず、中国も領有を主張する係争地域で、公権力を行使すれば武力衝突になりかね ない(孫崎享元外務省国際情報局長)との外交常識を正確に伝えていない)やウソの情報(中国が丹羽大使を数度、深夜に呼びつけたのは無礼だとの報道もあっ たが、事実は2度、深夜になったのは両者協議の結果。希土類の禁輸もなかった)まで使って「傲慢・無礼な中国」を煽ったことも腹に据えかねる。戦前、戦中 に「暴支よう懲」を煽って、日中戦争に国民を動員し、結局、国を滅ぼした過去の大罪を、もう忘れてしまったのか。マスコミがつくりだす中国横暴論に煽られ て国民の対中嫌悪感は8割近くになっている(読売)。こうした空気のなかで、対中強硬論に批判的な人まで「中国は嫌いだが」とか「あの国はどうしようもな い国だが」とか、アリバイの枕詞を述べてから意見をいうようになっている。正面から正論を言う人は、マスコミには登場しにくくなっている。

世界が「アメリカの時代」から「中国の時代」に移りつつあるとき、日中共生の道を拓くのが外交の基本課題だ。中国脅威論を煽り、普天間など沖縄米軍基地を「抑止力」として正当化しようとする菅内閣の「拝米嫌中」外交は、時代錯誤だ。

(久保孝雄)

『日本と中国』2010年11月15日号 所載

『日中友好』を担う人びと

 時々「なぜ中国に対しては友好協会があり、友好運動があるのか」と聞かれることがある。韓国、ロシア、米国などに対しても友好組織があり、活動も行われているが、全国と地方に組織があり、都道府県や数百の都市が中国の省・市と友好提携しているような国は、他にはない。

日本の国際交流活動のなかで、日中友好はひときわ大きな存在だ。それはなぜなのか。まず、日中は隣国で、特別の関係がある。2000年の交流の歴史があり、中身も深い。日本文化の基礎を作った稲作、漢字、仏教、儒教、律令制度、貨幣制度などはすべて中国から伝来した。

また、吉野ケ里でわかったように、弥生人には大陸系の遺伝子が入っていた。中国大陸からの渡来人が日本人のルーツの一部であり、日本民族とは兄弟の関係にある。

このように、長い交流で大きな文化的恩恵を受けてきたのに、明治いらいの近代日本は中国を蔑視し、敵視し、侵略行為を繰り返し、2000万人を超える中国 人を殺傷し、国土を荒廃させてきた。これに対する深い贖罪(しょくざい)の意識が、戦争を体験した多くの日本人の中にある。国交回復運動や友好運動の基礎 を築いたのは、こうした人たちだった。

友好運動の中核を担うのは、こうした歴史認識をふまえ、使命感を持って活動している人たちだ。しかし、今日の友好活動はもっと幅広い人たちに担われてい る。理屈抜きで「中国大好き」な人たちがいる。中国の歴史、文化が大好きで、機会あるごとに中国と交流する。中国が好きではないが、最も重要な隣国で、友 好関係が大切だと考える人たちも多い。さらに、少子高齢化が進む日本は、これ以上の経済発展は望めないから、中国とのビジネスで活路を開きたいと考える人 も増えている。

私は、歴史認識を踏まえ、使命感を持って運動に参加している人間の一人だ。しかし、この層はしだいに高齢化し、引退していく。勿論、同じ意識を持つ人たち が育ってきているが、まだ多くはない。全体として高齢化が進み、活力が落ちている。そこで、私たちは数年前から高校生を重点に新しい交流活動を始める一 方、若者を対象に「チャイ華」というボランティア組織を作リ、ネットで参加を求めたところ、現在、80名を超す若者が参加している。現役時代中国ビジネス に従事していた企業OBたちが「中国ビジネス相談室」を立ち上げ、活動を始めている。今後は、こうした若者、女性、企業家、企業OBなど、幅広い層に参加 を求め、ぜひ裾野を広げていきたい。

(久保孝雄)

『日本と中国』10年6月15日所載

日米中関係の抜本的見直しを

 神奈川県日中友好協会の会長に選任されてから、間もなく10年になる。年齢も傘寿を迎えたので、事務局には交代したい旨申し出ているが、どうなるだろうか。

それはさておき、この10年を振り返ると、中国の劇的な台頭ぶりに改めて驚かざるを得ない。10年前、GDP(国内総生産)が初めて1兆ドルを超え、世界 7位にランクされたときも、世界を驚かせたが、今年は5兆ドル規模に達し、日本を抜いて世界2位になる。すでに政治、経済、外交などでは米国と並んで国際 社会の主役を演じるまでになっている。米国では「G2(米中)時代」論が唱えられている。県日中の会長として、中国人民が達成したこの歴史的な大業に向き 合ってこられたことを、心から嬉しく、光栄に思っている。

もう一つの歴史的体験は、冷戦終結、ソ連崩壊後、唯一の超大国となって世界に君臨してきた米国が、9・11事件を機に強暴な戦争国家に変質し、「テロとの 戦い」を名目にアフガン、イラクに侵攻して破壊と殺戮を繰り広げて威信を失い、世界中に金融危機と経済危機をまき散らしてドルへの信任を崩し、自ら「アメ リカの時代」の幕を閉じつつあることである。一つの世界覇権の成立と破綻を目の当たりにしたのも、稀有な体験であった。

この10年は日本にとっても波乱に満ちた歳月であった。前半5年はブッシュの戦争政策に加担した小泉内閣によって日本型福祉国家は解体され、弱肉強食の格 差社会に変貌した。首相の靖国神社参拝の強行によって、日中関係も破壊され、冬の時代に入った。日中関係の極度の悪化を嫌う米国の意向もあって、安倍訪中 による「戦略的互恵関係」の合意が実現し、日中関係はようやく正常化した。

昨年8月には、戦後60年続いてきた自民党一党支配が、国民の歴史的審判によって崩壊し、「対等な日米関係」「アジア重視の外交」を掲げる民主党政権が誕 生した。鳩山首相、小沢幹事長らは「日米中は正三角形」を説き、日中韓の結束を重視している。他方、オバマ大統領もアジア戦略を日米基軸から米中基軸にシ フトしつつある。日本の対米貿易14%、対中華圏貿易30%、対アジア圏貿易49%の現実は、戦後60年続いた向米一辺倒の対外政策の抜本的見直しを求め ている。2世紀ぶりに世界の大国に復帰しつつある中国、「アメリカの世紀」と言われた20世紀の終焉後10年で覇権の座を降りつつある米国―この2大国に 挟まれた日本は、文字通り自前の外交力が問われる時代に入ったことを自覚しなければならない。

(久保孝雄)

『日本と中国』10年3月25日所載

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